書庫ら

よさこい
みちよさ
りっひー
やまちゃん
挨拶
乃木坂
この書庫は、余がこれまで筆を執り、世に問うた書を悉く収めたる、まことに静謐なる言の座なり。
思索と省察、感慨と信念とを文字に託し、幾星霜のうちに積み重ねしその果てが、今ここに一つの相貌を成して佇んでおる。

一書一書は、単なる紙と墨の結びにあらず。
余が精神のしずくを絞り、魂の奥底より掬い上げたる思想の結晶にて、時には世に抗ひ、
またある時は静かなる調べとなりて、人の心に寄り添わんことを願いしものである。
そのいずれもが、余の生きた証を静かに語り継ぐ書の子らにほかならぬ。

この書庫の扉を開けるたび、古の香りを帯びし紙の匂いと、背表紙に宿る沈黙の気配とが、まるで記憶の底より呼び起こされし夢の如く、
心を遠き日へと誘うのである。
書架に並ぶそれらの書は、無作為に置かれしものにあらず。
発刊の順に従い、あるいは主題の親近によって、あるいは余の内奥における思想の遍歴に応じて、慎ましくも秩序を以て配置されておる。

この空間に満つるものは、ただ書物のみならず。
そこには、余が文字を綴りしときの息遣いが、時を越えてなお微かに残響しており、
読む者が耳を澄ませば、頁の隙間より声なき声が立ちのぼるのを感ずるであろう。

余がこの書庫を設えしは、ただ己が業績を誇らんとするために非ず。
むしろ、己が歩みし思索の径を静かに見つめ返し、未来に向かいて言葉の種を撒かんがために他ならぬ。
書とは、終わりなき対話の器にして、過去と現在と未来とを繋ぐ、目に見えぬ橋梁なり。

これらの書は、今や世に旅立ち、人々の手に渡り、或いは読み継がれ、或いは忘れられん。
されど、ここに在る限り、彼らは余のもとに帰ること叶ひし子らの如く、変わらぬ姿にて寄り添い続けてくれる。
まこと、心安らかなる空間なり。

もしも、いずれの日にか、この書庫を訪れし者あらば、願わくは頁をめくるその手に、余が託したる想念の微光が宿らんことを。
文字は朽ちるとも、そこに宿りし魂までは朽ちず。
書庫とは、まさにその魂を護り伝える、時の庵とも申すべきものなり。
他の者の結びつきの道、此処にて拝見仕るべし
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